様々な社会現象や社会課題、特に企業組織の問題に対して、「社会心理学」(social psychology)の観点から研究をしています。
いわゆる基礎的な心理学の研究(「人の心理メカニズムや脳の仕組みとは?」)というよりは、
応用的な研究(「社会現象の背後には、どんな人の心理メカニズムがあるのか?」)を軸に取り組んでおり、
現在は後述の複数テーマに取り組んでいます。
なお、研究にあたってはいわゆる「現場」の方々と連携して研究・問題解決に取り組むことを重視しており、
研究の進展だけでも、現場の問題解決だけでもなく、両者のためになる研究を手を携えて進めることを大事にしています。
現在は組織に関する社会心理学や、産業・組織心理学の領域を中心に、主に次のテーマで研究をしています。
昨今、日本および世界で組織のメンバーの多様化、つまり「多様な属性・価値観の人が一緒に働くこと」が進んでいます。
この組織や職場に多様な人がいる程度を「ダイバーシティ(diversity)」と呼びます。
ダイバーシティはイノベーションの種になると頻繁にいわれていますが、一方で実証研究では「そう簡単ではない」といわれています。
つまりただダイバーシティを高めるだけではなく、多様な人が一緒に働きやすい工夫や状態(インクルージョン(inclusion)とも呼びます)こそが重要であり、
組み合わさって初めて、組織と人材両方に最善な環境が出来上がります。
ではどのような要因が整うことが、なぜ重要なのでしょうか。ダイバーシティが高い組織・職場で起きる組織現象・人間心理や、それを好転させるマネジメントの研究をしています。
関連発表・論文
正木郁太郎・村本由紀子 (2021). 性別ダイバーシティの高い職場における感謝の役割: 集合的感謝が情緒的コミットメントに及ぼす影響. 組織科学, 54(3), 20-31.
正木郁太郎(2019). 職場の性別ダイバーシティの心理的影響 東京大学出版会
正木郁太郎・村本由紀子(2017). 多様化する職場におけるダイバーシティ風土の機能、ならびに風土と組織制度との関係 実験社会心理学研究, 57(1), 12-28.
主な共同研究・関連プロジェクト(一部・順不同・敬称略)
2. 科学研究費補助金(研究スタート支援) 企業組織における「働き方のダイバーシティ」の各種影響とマネジメント方法の実証研究 August 2017-March 2019.
他、組織内サーベイなどを通じた協働も複数。
組織で働く人の心理や行動は、性格などの個人差や、対人関係だけでなく、物理的環境や客観的な組織制度の影響も受けます。
具体的には、オフィス環境を含む「物理的環境(physical environment )」の影響や、働き方・働く制度の影響もあるでしょう。
現在は特に「ABW(activity based working)」やテレワークを含む、働き手が自律的に働く場所を選ぶ働き方と、働き手の心理・行動の関係を研究しています。
ただし、新型コロナウイルス感染症の流行以来、テレワークの負の側面も注目され始めました(e.g., コミュニケーションの阻害)。
こうした新しい働き方の正負両方の影響と、物理的環境と人の心理・行動の相互構成のメカニズムについて、社会心理学の観点から実証的に研究しています。
関連発表・論文
遠藤一・薄良子・正木郁太郎 (2023). フレキシブル・オフィス利用における従業員の自律的な工夫とテレワーク化の影響に関する探索的検討. 産業・組織心理学研究, 33-49.
正木郁太郎・小泉喜之介・谷口美虎人・森田舞 (2021). オフィスにおける働く場所の選択肢とワークエンゲージメントの関係:心理的安全性の知覚による媒介効果の検討. 産業・組織心理学研究, 179-193.
谷口美虎人・森田舞・正木郁太郎 (2020). 「行きたい」オフィスに関する研究 第21回日本オフィス学会大会(2020年9月12日).
主な共同研究・関連プロジェクト(一部・順不同・敬称略)
1. (株)オカムラ 共同研究(研究内容の紹介の一例)
組織で働く上では、チームや職場を単位として「集団でともに働くこと」が欠かせません。
こうして集団でともに働くときに生じるグループ・ダイナミックスや、相互作用の効果と諸問題について研究しています。
現在は特に「感謝や称賛」の効果の研究と、「組織風土」(組織文化、組織規範)の維持・変化の研究の2つのテーマに取り組んでいます。
前者は「職場で互いに感謝を交わす、感謝が行き交う環境を作ることの効果」、後者は「組織における暗黙の了解やルール、規範が維持されるメカニズム」の研究で、企業内の質問紙調査のほか、客観的な行動データや人事データの分析も組み合わせて研究をしています。
関連発表・論文
正木郁太郎 (2024). 『感謝と称賛:人と組織をつなぐ関係性の科学』東京大学出版会.
正木郁太郎・久保健 (2021). テレワーク下で組織内の感謝のコミュニケーションは減少したのか: COVID-19流行前後の行動データを用いた検討. 産業・組織心理学研究, 35(1), pp.87-99.
正木郁太郎・村本由紀子 (2021). ダイバーシティ信念をめぐる多元的無知の様相: 職場に置けるズレの知覚と誤知覚. 社会心理学研究, 37(1), pp.1-14.
正木郁太郎・村本由紀子 (2021). 性別ダイバーシティの高い職場における感謝の役割: 集合的感謝が情緒的コミットメントに及ぼす影響. 組織科学, 54(3), pp.20-31.
社会心理学の研究を活かした実践のうち、重要なものが「人材育成」です。
すなわち、どのような環境において、どのような育成施策を取ることが人材の成長や幸福につながるのかを明らかにするというテーマです。
「企業」「学校」の2つのフィールドを対象に、人材育成(教育)の仕組みに関する社会心理学の観点からの実証研究にも取り組んでいます。
※ 企業や学校との共同研究をベースに進んでおり、まだ探索的な研究です。
関連発表・論文
正木郁太郎・久保健 (2021). テレワーク下で組織内の感謝のコミュニケーションは減少したのか: COVID-19流行前後の行動データを用いた検討. 産業・組織心理学研究, 35(1), pp.87-99.
正木郁太郎 (2019). 生徒が自分の関心を行動に移すには何が必要か:計画的行動理論とワクワク感による実証研究 日本心理学会第83回大会, 立命館大学, Sep 12, 2019.